心理テスト―なつかしいリョウからケイへ

【『an・an』2016.11.30(No.2030)の表紙はHey! Say! JUMPの伊野尾慧さん】

 もうだいぶ前、『an・an』(マガジンハウス)2016.11.30(No.2030)を眺めていたら、フードエッセイストの平野紗季子さんのコラムに、美味しそうなクラムチャウダーのブレッドボウルが載っていた。そのことを今でもなんとなく憶えていた。

 先月、風邪をひいて食欲不振の毎夜にいちばん身体に優しかったのが、クラムチャウダー。お湯を注ぐだけの即席スープであったが、もしあんなクラムチャウダーが、こんがりと焼けたパンにのっていたら、どんなに幸せな気分を味わえただろう。
 平野さんが紹介していたお店は、渋谷・恵比寿「CROSSROAD BAKERY」(クロスロード・ベーカリー)。カフェスペースもあるパン屋さんとしてファンが大変多かったようで、一度は訪れてみたいと思っていたところ、残念ながら今、このお店はもう無い――。
 コロナ禍の自粛騒ぎの影響下で、休業を余儀なくされ後に閉業となったらしい。そこには本当に美味しそうなクラムチャウダーの写真があったというのに、この本は10年前の本だということを思い知らされる。

【人の心をほっこりとさせてくれるのがクラムチャウダー】

なつかしいケイと心理テスト

 この号の表紙は、Hey! Say! JUMPのメンバー伊野尾慧さんである。いま見てもなんかちょっと大人っぽい。特集は「心理テスト」で、標題は、《あなた、彼、転機…。心理テストでわかる「真実」》
 あなたの心、彼氏の心、そして人生に何度も訪れる転機への不安げな気持ち。かなりのページ数を占めて様々な「心理テスト」を試してみることができるのがこの号の肝だったわけだが、私も一つ「心理テスト」を試してみたのである。

 「伝える」「つながる」が上手くいく、コミュニケーションタイプ診断。

 その「心理テスト」は、すごろく形式でスタート地点から詰問に答えていき、aかbかの選択肢であっちこっちコマを進めたり戻ったりするというもの。例えばこんな詰問。

知らない人が大勢集まるパーティ会場に来ました。あなたはどちらのほうが楽しめる?
a 自分から話しかけるより、話しかけられるほうが嬉しい。→4コマ進む
b 話しかけられるのを待つより、自分から話しかけたい。→9コマ進む

『an・an』(マガジンハウス)2016.11.30より引用

 あっちこっちコマを飛ばされて、様々な詰問に答えていくと、そのうち最終的にタイプがわかる。
 ちなみに私は、タイプDだった。

 タイプDは、「気まぐれな猫」。
 感覚重視でスタンドプレーがお得意。協調性がないわけではないが、つかず離れずの関係が好き。イメージ重視志向なので、もっと論理的にことばをつないでいけば、コミュニケーションが上手くいく――みたいな診断結果だった。
 タイプDの人の、“NGワード”というのが記してある。「普通じゃない?」

 何かしら会話で和気藹々としている中で、突然ボソッといってしまう。「それって、普通じゃない?」
 “普通です”という語意が、いかに場を盛り下げるか――。その服、普通。普通に持ってるポケモンのカード。普通のヘアスタイル。普通の面白い映画。普通に笑える芸人。普通のワタシ。普通のアナタ。
 考えてみると、私も普段の会話の中で、それに近いことばを発してトドメを指していた場合が、たぶん少なくない。理屈抜きでこうした「普通」のことばを、普通に吐くのをやめておこうと思った。

なつかしいリョウ

 ここまでの話の流れで、当ブログのタイトルの「なつかしいリョウからケイへ」のケイが、伊野尾さんだということは明白である。では、リョウは?

 大方の不安はドンピシャです。リョウは、私が敬愛する作家・朝井リョウさんのことで、このなつかしい『an・an』に、なんと朝井さんのコラムが連載されていたのである。そんなバカな。
 10年前だから許されていた(?)と思うが、『an・an』にリョウさんなんて、なんて場違いなシチュエーションなのだろう。ほんわかとクラムチャウダーを味わった後に、ゴクゴクゴクとエナジードリンクを飲むようなものである。しかもこの号のコラムの内容が、エグい。エグすぎる。

【燃やしてしまいたいコラム「朝井リョウ×古市憲寿 紙のラジオ」(No.152)】

 コラム「朝井リョウ×古市憲寿 紙のラジオ」(Vol.152)。先に内容を漏らしてしまうけれど、朝井さんはこの場において、自身の痔の話をしていたのである。

 絶対に検索してはいけないワードの話。

 どんな話かというと、いきなり冒頭で朝井さんは、《手術することになりました》と告げるのだった。そしてこれから話す病名は、絶対に画像検索してはいけない、と注意をうながす。つまりそれって、粉瘤(ふんりゅう)のこと。

 粉瘤。

 粉瘤というのは、人体の肌部分にボッチのような炎症の小山が出来て、まるで火山の火口のような形から膿が出ること。
 朝井さんはその粉瘤が、お尻にできてしまったのだという。《4年くらい前に初めて病院に行って初めてお尻に指を突っ込まれた時に、「粉瘤です」って診断されたんですね》。そういわれてずっと信じていたところ、別の病気の可能性が浮上した。痔瘻(じろう)。これも朝井さん曰く、絶対に検索してはいけないとのこと。

 痔瘻。

 古市さんとの会話形式のコラムなのに、すでに古市さんの存在感が誌面上薄い。全体としてこんな話聞きたくないわ感で沈みきっている。でも仕事だから相槌を打たなければならない。なんて辛いお仕事。

 ともかく朝井さんは、別の病院を紹介され、お尻を診てもらった。そうしてMRIなどの検診の結果、痔瘻(の併発)ということがわかった。

痔と痔瘻はぜんぜん違うんです。痔瘻って、お尻に肛門以外の穴が開くってことなんですよ。大腸にウミが溜まって、そいつらが出所を求めて肛門以外の道をずんずん作っていき、やがて貫通しちゃうんです。って、言葉にすると本当に壮大。地下のマグマとかの説明してるみたい。というわけで、手術しか完治の方法はないんですって。は~辛い! かわいそうなリョウ!

『an・an』(マガジンハウス)2016.11.30より引用

 おしゃれでエレガントな『an・an』の本で、こんな肛門の話に目を通している私の身にもなってほしい。いったいなにがかわいそうだというのだ、朝井さん――。

 古市さんはいたって冷静である。こんな質問をぽつりと投げかけている。まるで雨の日の水たまりに一滴の雨が滴り落ちたように。
「その経験ができたのも、小説家としては良いことなの?」

 朝井さんは、突拍子もないことをいう。《全部エッセイのネタにするから》
 なんとすでに、この時タイトルは決めていたようである。
 朝井さんのファンならもう誰でもご存じ。
 そう、あの『肛門記』。あれは確か、文春文庫の『風と共にゆとりぬ』に収められていたエッセイで、私も読んだ。克明に朝井さんの痔瘻の手術体験が綴られている。実にのびのびと、晴れやかに。

§

 というわけで、今回の「なつかしいリョウからケイへ」という話は、なんだか失敗――台無しだった気がしないでもない。愚直にいい切ってしまえば、リョウとケイはまるで生きている世界が別個の人――のようにも見える。事実、そうなのかもしれない。私はそれを、このなつかしい『an・an』を眺めて感懐した。

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