
誰しも逃れることなく、子どもから大人に成長する。小さかった身体が大きくなり、やがて詰め込み式の学校の勉学やらで心も鍛えられ、一応の社会環境を認知し、17歳の頃には、物事のあり様も理解できて精神的にも大人びてくる。
発育は喜ばしいことであり、それと同時に、様々な「不幸」をも背負い込み、身体と心に刻み込んでいく。厳然たる事実を私は述べている。つまり、大人になるとは、「薄汚れていくこと」なのだ。
春が嫌い
「春」というコーパス
私が子どもだった頃――1970年代から80年代前半にかけて――春の大人びた風が、大嫌いだった。
年度初めの春を迎えれば、学年が一つ繰り上がる。そうしてだんだんと大人へ近づいていく不安がつのる。教室が変わり、友達も変わる。
朝、父親が二槽式洗濯機を回し、トランジスタラジオをONにし、文化放送の番組が聴こえてくるのが嫌だった。母親がトーストを焼き、ココアを作って用意してくれたその食卓の香りも雰囲気も、嫌だった。さぞ喜ばしい春だとばかりに咲く、ピンク色の桜の花が大嫌いだった…。それでもやはり、世の中は春で賑わうのだけれど。
でも、小学4年生で大きな恋をし、ちょっとばかり悲しい別れを経験して、開き直ったのだ。春など怖くない、早く大人になりたいと――。
あれから随分と大人としての経験を積み上げてしまったなあと、反省の折に感慨深さを想った。もうとっくに子どもではない自分が、“大人の雑誌”に読み耽ってしまっている。
それは6年前の2020年だった。2020年1月30日号の『週刊文春』(文藝春秋)。いわば、心がざわめき立つ「春」のコーパス(corpus)で、その時の内容が今でも蘇ってくるのだ。
ED(勃起不全)で始まり
本をぱらぱらっとめくり、最初に読んだのは意外な文面だった。「ED(勃起不全)を引き起こす薬は多い」。
思わずその文章に一定の時間、目が止まるようになってしまった大人の私。いや、薄汚れてしまった私。カルシウム拮抗薬、利尿薬、抗うつ薬…。
幸いにして、そんな薬とはまるで縁のない生活を送り、ほぼ毎日の勃起も快調であるが、たしかにあの時、何よりも真っ先に、誰彼のスキャンダル記事よりもその文章に目が止まったのである。

不安な新型肺炎
そうであった。2020年の1月――。
あの時まだ、新型コロナウイルス(COVID-19)は、「新型肺炎」と呼ばれていたのだ。しかしながら虚をつかれたようにしてこの先、始まったのがパンデミック。コロナ禍だった。
連載「池上彰のそこからですか!?」(第417回)の見出しは、「中国で再び新型肺炎」。春節をこれから迎えつつある時、例の中国・武漢から広まっていった「新型肺炎」の猛威が、「SARS」騒動のようにして日本国内でも起きるのではないか、という懸念。ちなみにこの時点での全体の感染者数は1,700人以上。感染源がまだ特定されていない、とも記している。
いずれにせよ、これはパンデミックになるのではないか――といった論調の記事も他にあり(「新型肺炎中国当局発表はやっぱりウソばっかり」)、中国当局の隠蔽体質も相まって、私自身この時、不安な気持ちになったのを憶えている。

「不倫報道」と「同棲彼女」
不倫の俳優
それから私は、俳優の東出昌大さんの不倫報道の記事を読み、空を仰いだのだった。当時、東出さんは、イクメンで認知度を上げていた若手俳優だったからだ。
2017年、9歳年下の女優(唐田えりか)と親密な関係となっていた東出さん。濱口竜介監督の映画『寝ても覚めても』(2018年)で二人は共演。唐田さんにとって彼は、“大恋愛”の人であった。
しかし、妻だった杏さんは3人目のお子さんを身ごもっていて、夫の不倫を問い詰めることになった。反省の色が見えない東出さんの夫婦関係は奈落の底。最悪の事態に――。情報を掴んだ文春スタッフが、東出さんの“別居”状態の事実を伝えるこの記事の内容は、とてつもなくセンセーショナルだった。
どんだけ凄い俳優なのだ?
と、あらためて詮索したくなった私は、映画『寝ても覚めても』を観たのだ。原作は柴崎友香さんの同名小説。いや、ほんと――。これ、もの凄い映画だった。二人の大恋愛のリアリティが伝わってくる、迫真の“記録映画”であったのだ。

ラブラブな櫻井さん
つい先日、どういうわけだか私が見た夢の中に、嵐の櫻井翔さんが登場してきて、ハッとなって目が覚めた。嵐の解散をめぐる当ブログの投稿(「嵐を迎え、そして嵐は去ってゆく―新時代のバグる世界」)と、これから全国ツアーが行われる報道に目を向けていたせいかと思われる。そこでまた、文春の記事が思い出された。
「櫻井翔『同棲彼女』とハワイでラブラブ撮影会」――。あ、この見出しの前に、“ベトナム帰国翌日に「強行出発」”というのを付け加えておかなければならない。
たぶんこの当時、熱烈な嵐ファンが見たら、それこそショックで号泣の末に、文春をバラバラに破ってダストボックスに廃棄し、二度と文春なんて読むか、バカ! くらいのことは思っただろう。とはいえ、冷静に振り返ってみると、実にほんわかしたカップルで、いい。結婚へと結ばれた良縁に、憂いは一つも無いのだ。
§
ミラノ・コルティナ五輪が終わり、パラリンピックが3月6日から始まる。そういう時期に、これを書いている。
懐かしい文春(2020年1月30日号)の本文を、心ゆくまでたっぷりと読んだのだけれど、まず何より、私の心もゆったりとしている。もはや嫌いな春ではない。大好きな季節の春である。
冗談を一つ加えると、新しいパンツを買いたい、と思った。
なにか、忘れていたコーパスが、あるのではないかと、文春をもう一度開いてみた。
あ、これだ。

加藤紗里さんの女心
能町みね子さんの連載「言葉尻とらえ隊」(第385回)。
そこの標題に、加藤紗里さんの「愛だけでは成り立たないこともたくさんあるなと現実問題思います」とある。これだよ、これ!
私はこの記事を読んで、目から鱗が落ちたのだった。能町さんの文章力の凄さに感動したのだけれど、いわゆる大人の世界の意味するところ…いや違う、大人の女のいい分…いや違う違う。男と女の「虚」と「実」の世界を、実に巧みな文章でいい切ってしまっているのだった。
まず冒頭。能町さんは、《生き様をさらけ出した女の人に惹かれる》と前置きする。
要するに、インチキ臭くても、バッシングを受けていても、例えば木下優樹菜さんや坂口杏里さんが好きということ。そう、加藤紗里さんもその一人。
不動産会社経営の男性と電撃結婚。それから、すぐに離婚。
TBSテレビの「サンデー・ジャポン」に出演した加藤さんは、次のように述べたという。
《(結婚前に1億円使わせてくれたのに)今までぐらいの使い方はできないと言われたから、バイバイ》
《お金イコール愛》
番組の出演者で、加藤さんとも親しいテリー伊藤さんは、彼女は自分を“悪く見せるすべ”を持っていて、本当は裏がある…的な発言をした。
そのため、能町さんは、さらに「アエラドット」でのインタビューの内容を持ち出し、加藤さんが前夫の過度な束縛や、友人に泣きついた云々の質問に対し、それを「否定しなかった」点を挙げてみせる。
さらには、SNSで上げられた結婚時の報告文まで引用している。
《まだまだ未熟な紗里ですが、彼と出会い婚約期間をへて入籍にいたりました。これから夫婦として助け合い幸せなあたたかな家庭が築けるように努力していきたいと思っております》
ここで加藤さんは意味深なことも伝えていた。
《厳しいお言葉たくさんあると思いますが、幸せはお金で買えると思っています。やっぱり紗里にだって愛はあるけど、、、愛だけでは成り立たないこともたくさんあるなと現実問題思います。。。はーーーい!真面目な話しはここまでにして(以下略)》
能町さんはこう読み解く
能町さんいわく、「幸せは金で買える」云々を、こんな深刻な話はやめようと切り出していると――。彼女にも愛はあるが、《愛だけでは成り立たないこともたくさんあるなと現実問題思います》の箇所は、「お金=愛」の“開き直り発言”とはまるで「真逆」なのだと。これはかなり本音なのではないか――と推理しているのだ。
能町さんのいいたい核心部分はここ。
お金の関係ない恋愛では過去何度も「成り立た」ずに失敗し傷ついた。それでも「現実問題」として結婚して幸せになりたいから、「愛」はともかくお金持ちを狙う。しかしこの考えの是非についてはあまり自問したくない――という意味に取るのは妄想がいきすぎでしょうかね。
能町みね子「言葉尻とらえ隊」第385回より引用
日頃私が、買ってきた『週刊文春』を舐め回していて、社会勉強になるなと思う点は、まさにこうしたところ。単にスキャンダルを掻き立てているだけの雑誌ではないことを意味している。
いや、仮にそれだけの雑誌であったとしても、「大人の辛(から)い世界」の諧謔や憤懣をにじませ、それを咀嚼できるだけの材料も経験則も学べそうだということは、いえるのである。若いサラリーマンは、どんどん『週刊文春』を読んで、耐性を鍛えるべし――。
§
ワタシはワサビが大嫌いだから食べない――で済ませてしまうのが子どもの発想。そうじゃなくて、嫌いだからこそ思い切って口に入れてみて、その辛い分別をとことん味わってやるわよ――と潔く「腹をくくる」のが大人。「薄汚れていくこと」に躊躇しないこと。これがとても大事。
日本人がだんだん、子どもじみてきたのはそれを恐れているから。でも、そんなこといってたら、どんどん感性が鈍くなって落ちぶれていってしまう。大人の世界を楽しもう。
春――。
恋愛感情だけでは結婚なんてできないことを、女性の立場から吐露した加藤さんをフォローする能町さん。その素敵な感性に、私は敬意を払いたい。
大人ってそういうものだよねということを感じる。
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