『婦人公論』―こしけとおりもの

 今年の春、大人の恋愛と性に関するウェブサイト[カゼヒカル やましい大人の性のテクスト]を立ち上げた。その名の通り、大人の恋愛沙汰と、セクシュアルな言説に刮目し、それぞれのトピックを逐一語っていくウェブサイトである。
 この手の話が苦手な方は、ウェブサイトへのアクセスを避けてもらって一向に構わない。逆に、通り一遍のスキャンダルネタやセクシュアルな話題を振りまくウェブ記事に飽きてしまっている方は、ぜひお寄りいただきたいのである。濃厚かつとっておきのサブカル的情報にありつけるかもしれません。

 この分野において、昭和期及び平成初期頃までの雑誌や週刊誌はたいへん参考になる。今時代の雑誌よりも、はるかに取材力に長けて様々な情報が詰まっているからだ。
 例えば、ある程度年輩の方なら、この語感の違いを読み解くことができるだろうと思われるのが、今時代における「女性問題」といった場合の定義・解釈と、昭和期における「婦人問題」という語。これらの標語をどこかで発見したならば、前者と後者では全く異なる“問題”を指していることに気づくはずだ。

 そもそも、「男性問題」といういい方はあまり聞いたことがない。むろん、「殿方問題」というのも無い――。
 こんなところから察して、その時代の巷の女性を、“問題”提起の標語に挙げていること自体、社会的な暗喩として、いうなればその“秘匿懸案”は根深いものであったのだ。こうしたことも含めて、少々古い時代の恋愛沙汰やセクシュアルなトピックから、何が“問題”であったかをあぶり出し、それらを読み解いていきたいと思っているのである。
 なので、まあ、ウェブサイト[カゼヒカル やましい大人の性のテクスト]をどうぞよろしくお願いします。

刮目したい『婦人公論』

 前置きが長くなってしまったが、この稿ではざっくらばんに、昭和期の雑誌や週刊誌が面白い――ということに刮目して、その記事の中身を俯瞰して強調してみたいのである。さらに深堀りしたセクシュアルなテーマに関しては、[カゼヒカル やましい大人の性のテクスト]のほうで発信していくので、サイトにアクセスしていただけたらと思う。

 さて、先の「婦人問題」というのをことさら調べてみたいと思った時、昭和期のどんな雑誌がふさわしいかと探したところ、やはり筆頭は『婦人公論』(中央公論社・現中央公論新社)の月刊誌であろうという結論にいたった。
 『婦人公論』は、1916年(大正5年)創刊の女性誌であり、現在も発刊されている高名な雑誌である。明治期の平塚らいてうらの“女性解放運動”に端を発し、独身女性あるいは婦人の社会的地位向上と男女同権を旗印とした社会運動を、一気に束ねた雑誌であったのだ。

 差し挟んで個人的なことを述べると、これまで私は、『婦人公論』を読む機会がなかった。『婦人之友』だって『婦人画報』だってない。
 その理由は、男だから――ということ以外に、とくに考えられるべきものは一つも無いのだけれど、女性誌を男が読み耽るというある種の禁を破る行為は、30代半ばくらいまで、その必然がなかったし、禁であると定義づけていた観念が、実に狭い料簡でバカバカしいものだということに気づかなかったのだった。
 とはいえ、やはり今にいたるまで、『婦人公論』を手に取ることがなかったのは事実である。

 繰り返し述べるけれど、ここではあくまで、『婦人公論』の記事としての面白さに刮目したい。私は試しに、『婦人公論』1963年2月号をヤフオクで買い求めて手に取ってみたわけである。

 1963年というと、元号でいえば昭和38年。アメリカのケネディ大統領暗殺事件があった年で、この年の6月、世界で初めてソ連の女性宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワ(Valentina Vladimirovna Tereshkova)さんが、地球の軌道周回に成功した。すなわち、この時女性が初めて宇宙に行った――というトピックだ。
 彼女は軌道周回中、「ヤー・チャイカ!」(訳して「こちらはカモメです」)と発し、これがまた女性の社会的地位向上につながる、シンボリックなメッセージともなったのである。

 そんな頃の『婦人公論』を読もうというわけであるが、ちなみに翌年開催された東京オリンピックでは、女子バレーボールの競技で日本がソ連を打ち破り、見事に金メダル獲得。日本代表チームはその偉業が評価されて、“東洋の魔女”などと謳われた。それもまた、女性の社会的地位向上のシンボリックなトピックであった。
 先の「婦人問題」という語には、女性の社会進出の背後に潜む、悩ましいいざこざも含有し、その社会的地位向上へ邁進する女性たちの主体的な苦悩と、男性優位社会から見下ろした男性側の女性に対する“問題”提起(今では誤認や偏見に近いもの)としての意味合い、それともう一つ、女性自身の身体的な悩みも含まれていたといっていいだろう。

 あえてここでは古めかしくご婦人――と称することにする。
 男性は、ご婦人方の「性の悩み」に全く疎いのである。このことは、いつの世でも変わらないのではないだろうか。

 つまり、男性からすれば、近くて遠い他者である女性の悩みを、とりわけ知る必要はない――という認識があるのだ。これは決して良識な判断ではない。
 しかしながら、かつて教育上の便宜から、そんな感覚が植え付けられているのであって、ここではあえて蔑称したい“旧民男性”――の古い世代の男性(当然、私自身も含まれる)は、それぞれの学校での性教育で、「男女別々の授業を受けた」ことを思い出すのである。スケベ心の旺盛な男の子などは、その別室(カーテンで閉めきった密室)のドアの隙間から覗き込んで、女子が何を学んでいるかを知ろうとしたわけだが、まさに彼の行為こそが正しかったのだった。

こしけとおりもの

 そんな“旧民男性”らの無知に、女性たちは呆れ返るかもしれないが、かつて性教育の方針に不備がありすぎたので、世の男性が無知であるのはしごく当然である。だからといって、彼ら(私を含めた彼ら)を擁護する気はさらさらない。

 『婦人公論』の1963年2月号を開いていて、私は「こしけ婦人病」という題目のコラムを見つけたのだった(「あなたの衛生相談」)。最初見ただけでは、なんのことだかさっぱりわからなかった。

こしけって何?

 そう、私の頭の中を駆け巡ったのである。こしけって何?
 そういえば子どもの頃に、こしけって聞いたことがあった。でも意味はわからなかった。チンゲやマンゲというのは当然わかっていたが、こしけって、腰に生えた毛のことだろうか。腰毛…。
 男なら、それはギャランドゥだろうと思った。女性のそれは、確かにギャランドゥとはいわないな。じゃあ、腰の毛、それがこしけのことなのだろうか。

 そんなバカなことを思い出している場合ではない。腰の毛なんて、全くそれは不正解。コラムの「こしけ婦人病」は、こんな文章から記されている。

 これまでにも軽いおりものがあり下着を汚すことも時々ありましたが、最近になって、おりものの量が目立って多くなりました。不潔で不快な日が続きますが、はずかしくて人にも話せず悩んでいます。他人に知られず早く治したいと思います。どうしたらよいでしょうか。

『婦人公論』1963年2月号「あなたの衛生相談」より引用

 “こしけの悩み”という小見出しがあり、軽いおりものが…云々と記されると、何のことだかさっぱり訳がわからなくなるのが、“旧民男性”、いや一般男性のほとんどではないだろうか。

 もちろん、女性の生理(月経)の話というのなら、わかる。
 しかし、こしけ、おりもの――と語られると、全く無知で困ってしまうのだった。おりものの悩みと記せばいいものを、なぜわざわざ、「こしけ」と表記したりするのだろうか、といった具合に。

そう、だから、こしけっていったい?

 近年の女性の生理に関する本をひらいて調べると、おりもののことは記されている。だが、こしけという語は出てこない。
 三省堂の『現代新国語辞典』(第七版)を開いても、こしけの語は無い。おりものは「下り物」という語で、《子宮から出る粘液》とだけあった。
 そこで今度は、『広辞苑』(第七版/岩波書店)をひいてみた。――あった。
 こしけは、腰気。白帯下(はくたいげ)の別称とだけある。白帯下をひいてみると、そこに出ている。

女性生殖器から分泌される白色粘液性溷濁膿様の液体。生理的なものと病的なものとがある。こしけ。下り物。

『広辞苑』第七版より引用

 溷濁(こんだく)で膿様(のうよう)。それは、濁濁とした膿(うみ)が出ている様ということか(※膿みという表現は病的なものを指すが、ほとんどが生理的な正常なおりものであるので、誤解されないように)。
 ということで、もうご承知のとおり、おりものもこしけも、同じ意である。おりものに関しては、[カゼヒカル やましい大人の性のテクスト]の基礎知識編に記しておいた(「おりものについて」)。

 記事の中身。
 「こしけ婦人病」のコラムにおける悩み相談の質問者は、おりもので下着を汚すことがあり、最近おりものの量が多くなって不快だ、早く治したい、ということを述べている。
 これに対してその解答は、“やはり病的です”という小見出し。

 月経前後や排卵期の無色白色のおりものは、生理的なもので心配の必要はない。しかし、悪臭やかゆみがある場合、あるいは黄色味を帯びたおりものの場合は、異常であるから、早く手当が必要なのだと。さらには、恥ずかしくて診察をためらっていては、病状が進んでしまいますよ、というようなことを付け加えて述べている。

 とはいえ、これ――この衛生相談のコラムは、実をいうと、お薬の広告なのである。

 「婦人美宝散」(ふじんびほうさん)。
 のみよい粉薬。《サフランをはじめ十種の有効成分を配合した安心できるお薬》。こしけ以外に、生理不順や下腹、足腰の冷えや痛み、頭痛、めまい、更年期障害などのご婦人にも効くらしい。《婦人科一切の病状が詳しくわかる美本「婦人衛生の知識」は左記本社へ申込まれますと無料で送ってくれます》

 私、個人的なことをいうと、こういう昭和期などの古雑誌の、企業広告だとかを精読するのが大好きで、けっこうな興味を抱く。内容はもちろん、どんなレイアウトか、どんな活字体を用いているか、なども含めて。
 「婦人美宝散」を飲んでみたい――と、心のなかでひっそりと念じてしまうのであった。おまえオトコだろ! とはいわないでほしいのです。

 まあ、それはともかくとして、『婦人公論』のこの号では、ほかに、不倫の悩み相談なども、なかなかためになるのだった。この話の続きは、[カゼヒカル やましい大人の性のテクスト]でしたい。ぜひそちらでお会いしましょう。『婦人公論』ね。

追記:[カゼヒカル やましい大人の性のテクスト]の「不倫の相談・引き返すなら今です」はこちら

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