幸せのキス

【ホテルにて。スタバのコーヒーを飲みながら】

 私の薄っぺらくかぼそい人生には、特徴といえるものがない。掴んだチャンスは程なくして空の向こうへ飛んでいってしまい、出会った最良の友や恋人は、大海原の果てしない船人として去っていくことも多かった。私自身、誰かの傍らに長く居続けることが、苦手だったのかもしれない。

 自分の気持ちを語ったり、こころざしを書くことは、長年平易にやってきたことなので、それは慣れているし、そういったことを型どおりに済まそうとも思っていないから、一番大事にしてきた活動だと自負している。
 私がもし、めっぽう満たされていて、幸福感に関して一点の曇りも影すらもないのなら、書くことは辞めてしまってもかまわないのだった。けれど、何かしらの悲しみが消えることはないのだから、たぶん私は、これからもずっと何かを書き続けるだろう。

 近頃、私も友も、友情から愛情の兆しを見せるようになって、一度は挫折しそうになったけれど、またその兆しが濃厚ともなってきたので、友愛だったものが性愛へと徐々に変化してきているのがわかる。そのことはとても重大だ。

§

 100円ショップ(百均)で買ったボールペンでこの原稿を書いているが、それも悪くないと思った。目の前に、スタバのブラックコーヒーのボトルがある。飲み干すまでには時間がかかる。

 私の友は、私に近づいて、キスをしたがっている。でもまだそのタイミングではなさそうだ。

 ――ずいぶん余計なことを書いてきたように思う。
 私が書く文章には、これといった特徴がない。史実家のような、かすかな秒針だけが聞こえてくる文章とでもいえばいいのか、何事にも事実を待ち望んでいる好奇心とちょっとした野心とがあり、それでいて臆病者でしかない。
 とはいえ、やはり何かを待ち望んでいる、というのが本当のところだ。

 最後の幸せを手に入れるまでは、私は書くことをあきらめない。
 幸せのキスは、もっと後回しにしていい。

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