説得力のあるあなたへ―さよならA子の教科書

【光村図書の中学3年用国語教科書】

 私はこれまで、文章を書くために必要な事柄、注意点を、国語教科書の中から学んできた。だから時折、学生時代を思い出して国語教科書を開くことがある。

説得力のある文章

 光村図書の古い中学3年用国語教科書(平成6年2月5日発行)に、「説得力のある文章の書き方」という見出しのページがあって、これがたいへん参考になった。
 冒頭にこうある。

《自分の意見や考えをわかりやすく書くには、まず、その文章で述べようとする中心をはっきりさせることが大切である》

 文章で述べようとしている中心のことを論旨といい、これをはっきりさせ、そのための材料を整え、具体的に詳しく述べていくことが必要だと記している。そして材料は、得た情報が正確で、出所の責任のもてるものが大切だとも述べられていた――。
 そうした意味でいうと、新聞の記事というのは、最も参考に相応しい見本ではないか。

【アイドルグループ「嵐」の最終公演を伝える2026年6月1日付東京新聞朝刊】
「嵐」最終公演の新聞記事

 つい先日、人気アイドルグループ「嵐」のツアーが全て終わった旨の新聞記事を見た。2026年6月1日付東京新聞朝刊「感謝の嵐 いつまでも」。

  • 人気アイドルグループ「嵐」が5月31日、ツアー最後の公演を東京ドーム(東京・文京区)で開いた。
  • 3月から全国5都市 計15公演
  • 26年半にわたる活動を終えた

 以上が記事の論旨(要旨)である。そして以下の補足的な情報も記されていた。

  • 「嵐」のCDデビューは1999年11月
  • 2009年より12年間、「紅白歌合戦」に連続出場
  • 宮城県で震災復興支援コンサートもおこなった
  • 2023年にはジャニー喜多川氏の性加害問題で社会を大きく揺るがした(旧ジャニーズ事務所)
事実は具体的に

 説得力のある文章を書くうえで、事実を書くには、抽象的よりも、具体的なほうがいい――。

  • 「2009年」から「12年間」連続出場
  • グループは「20年末」で活動休止
  • 「昨年5月」、「26年春ごろ」にツアーを開催して活動を終了すると発表していた
自分の意見は分けて書く

 論旨と材料の組み立て方や順序を考えるのも、説得力のある文章を書くうえで大切である。「嵐」のツアー終了の記事を読んでも、まず論旨(要旨・要点)を先に述べた後、補足的なこまかい情報を並べているのがわかる。
 重要なことは、事実の記述と、自分の意見の記述は、はっきり区別させること。

【教科書の中の「説得力のある文章の書き方」】

さよならA子の教科書

 ここまでは、教科書の「説得力のある文章の書き方」について述べた。

 そもそも説得力とは、いかにして身につけられるものであるか。
 それは、「文章を書く」ということでなくとも、日頃の事実との向き合い方にも関係してくることだと思うのだ。偽りない事実を述べること――。ただそれだけでは、いくら説得力があるとしても、場合によっては人の心を傷つけてしまうことがある。この人には説得力がある、と思わせるだけの事実の羅列と、他者への「思いやり」が、大事なのではないか。

 この光村図書の国語教科書は、かつて所有していたA子の教科書の、いわば“模造”なのだった。本物のA子の教科書は、少し前に処分しており、その後、やや困ったことになって、同じ教科書を入手したという次第である(「告白の法則―A子の教科書から」)。

 しかしこの“模造”のA子の教科書も、私には必要のないものになった。
 「なった」と断言できるほど、その確信はない。せいぜい、「必要のないものになったのではないか」くらいの淡い判断なのだけれど、その理由は、手元に置いておく“想い出の品”としては、もう相当な時代を感じるものになったからである。

 ここにおいても、私の説得力は薄いのだ。
 とはいえ、A子を懐かしむことは今後もあるとしても、そのためにこのアイテムが必要だとは、思わない。そしてまた、あまりにも都合のいい、一方的な思いというのも――それが真の愛情だったとしても――この教科書の存在が、果たしてそれを述べるだけの説得力を「持ち得られ続けるのか否か」は不透明であり、むしろ不条理ではないかとも思うのである。

 新しい愛情にこそ、私の心は揺れ動いていく。だから、過去の愛情論は、もはや私にとって不要な泉なのである。新しい愛情への思いやり――。それが今、欠けるものであってはならないのだ。

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